ヨーガ・スートラ1-10

[1-10] 睡眠とは、「空無」を対象とする、心のはたらきのことである。

Deep sleep is the absence of all impressions resulting from opacity in that which is mutable in human beings (chitta). ||10||   

 

<解説>①ここで睡眠(nidra=ニドラー)というのは、夢も見ないほどの深い眠りのことである。このような状態にあっても、心のはたらきはなくなっていない。

 

<解説>②サーンキャ・ヨーガの立場からいうと、自主(プラクリティ)は、三種の徳(guna=グナ;性質)すなわちエネルギーの間のダイナミックな結びつきの上に成り立っているのであるから、従って、それを根源とする心(チッタ)もまた、絶え間なく転変しつつあるのである。

 

<解説>③心は瞬時といえども転変をやめたり、存在しなくなったりはしない。その証拠に、どんなによく眠った後でも「あぁよく眠った」とか、「良く寝たので頭がはっきりした」という記憶が残るのである。それでは、熟睡のさなかには夢も見ないし、外界の物象を知覚したりしないのはなぜか?

 

<解説>④それは、その際の心のはたらきの対象となっているものが、”非存在”(abhava=アバーヴァ)という想念そのものであるからである。

 

<解説>⑤ある註釈家によれば、睡眠とは、目覚めている時や夢を見ている時のような心のはたらきがなくなることの原因であるタマス(暗黒と鈍重とを性格とするエネルギー)の徳(グナ)を対象として生じる、心のはたらきのことである。

 

<解説>⑥あるいは簡単に、ただ「存在しない」ということそのことだけを、”想念対象”とする、心のはたらきのことと解してもよい。仏教で所縁縁は四縁の中のひとつであり、心、心所の対境のことである。